近年、日本列島を襲う自然災害の規模と頻度は増加の一途をたどっています。 台風、地震、豪雨、豪雪—これらの災害が私たちの生活を脅かす中で、最も切実な問題の一つが「住まいのエネルギー確保」です。

停電が長期化すれば、冷蔵庫の食料は腐り、情報収集手段は断たれ、真夏や真冬の気候は健康リスクとなります。 この問題に対して、太陽光発電という選択肢は新たな可能性を開きつつあります。

私は20年間にわたり太陽光パネルの開発に携わってきましたが、その経験を通じて、災害時のエネルギー確保という観点から見た太陽光発電の価値は、日常のコスト削減効果以上に大きいと確信するようになりました。 エネルギーの自立性と回復力(レジリエンス)を高める太陽光発電は、これからの住まいづくりに不可欠な要素になりつつあるのです。

目次

災害時のエネルギー脆弱性と現状課題

過去の大規模災害から学ぶ電力インフラの脆弱性

2011年の東日本大震災では、地震と津波による直接的な送電設備の損壊に加え、福島第一原子力発電所の事故も重なり、東北地方を中心に470万戸もの住宅が停電しました。 その復旧には地域によって数日から数週間を要しました。

2018年の北海道胆振東部地震では、道内唯一の大規模火力発電所が緊急停止し、全道295万戸が停電するブラックアウトが発生しました。 完全復旧までに約45時間を要したこの事態は、広域連系が限られた地域の電力供給がいかに脆弱であるかを如実に示しました。

2019年の台風15号・19号による千葉県を中心とした大規模停電では、倒木による送電線の損傷が各地で相次ぎ、復旧作業の遅れから2週間以上も停電が続いた地域もありました。 この事例は、災害後の復旧作業の難しさと長期停電の現実を私たちに突きつけました。

こうした経験から見えてくるのは、中央集権型の大規模発電と長距離送電に依存した現在の電力システムが、災害に対して本質的な脆弱性を抱えているという事実です。 一箇所の損傷が広範囲の停電につながるという構造的な問題は、今後も繰り返される可能性が高いのです。

従来の非常用電源の限界と問題点

災害時の停電対策として一般的な非常用発電機は、主に化石燃料(ガソリンや軽油)を使用します。 しかし、これらの燃料は災害時には急速に枯渇し、補給も困難になります。

東日本大震災でのガソリン不足は記憶に新しいところですが、燃料を確保できたとしても、排気ガス問題から屋内での使用はできません。 屋外での使用は騒音問題も伴います。 さらに、長期保管された燃料は劣化するため、定期的なメンテナンスも必要です。

また、ポータブル電源という選択肢もありますが、容量が限られるため、冷蔵庫やエアコンといった大型家電の稼働には対応できません。 つまり、従来の非常用電源は短期的な対策にはなりますが、長期化する災害には根本的な解決にはならないのです。

エネルギーレジリエンスの観点から見た日本の住宅事情

日本の住宅は、耐震性や断熱性については着実に向上していますが、エネルギーの自立性という観点ではまだまだ発展途上と言わざるを得ません。 国土交通省の調査によれば、2020年時点での新築戸建住宅における太陽光発電システムの設置率は約20%にとどまっています。

住宅のエネルギーレジリエンスを考える上で重要なのは、「平常時も非常時も使えるシステム」という視点です。 災害時だけのために高額な設備投資をするのは現実的ではありません。 日常的に経済的メリットがあり、なおかつ災害時にも力を発揮するシステムが理想的です。

また、日本の住宅は平均寿命が30年程度と言われており、欧米の60年以上に比べると短いのが現状です。 住宅のエネルギーシステムを考える際には、この住宅寿命との整合性も考慮する必要があるでしょう。

太陽光発電が変える災害時の住まいの在り方

災害時にも機能し続ける自立型エネルギーシステムの仕組み

太陽光発電の最大の強みは、外部からの燃料供給に依存しない「自立型」のエネルギー源である点です。 太陽光があれば発電し続けることができるため、災害で周辺インフラが損壊しても、自宅の屋根という「資産」を活用して電力を生み出すことができます。

ただし、一般的な系統連系型の太陽光発電システムでは、停電時に自動的に発電を停止する「単独運転防止機能」が働きます。 これは電力会社の作業員の安全を確保するための重要な機能ですが、停電時に太陽光発電が使えなくなるというデメリットがあります。

この課題を解決するのが「自立運転機能」を持つパワーコンディショナー(PCS)です。 自立運転に切り替えることで、太陽が出ている日中であれば、専用のコンセントから電力を取り出すことが可能になります。 最新の機種では、この切り替えが自動で行われるものも増えてきました。

私が開発に関わった世代のPCSでは、自立運転時の出力は1.5kW程度が一般的でしたが、最新モデルでは3kW以上のものも珍しくありません。 これによって、冷蔵庫(約400W)、テレビ(約150W)、LED照明(約10W/個)といった必要最低限の電化製品を同時に使用することが可能になります。

蓄電池との組み合わせによる24時間対応の電力供給システム

太陽光発電の弱点は、夜間や悪天候時には発電できないという点です。 これを補うのが家庭用蓄電池との組み合わせです。

蓄電池の容量は、一般的な家庭用で5kWh〜15kWhの範囲のものが主流となっています。 一般家庭の1日の消費電力量が約10kWh〜15kWhであることを考えると、必要最低限の電力を1日程度はカバーできる計算になります。

特に注目したいのは、近年の全館停電対応型のシステムです。 従来の自立運転では専用コンセントのみが使用可能でしたが、全館停電対応型では分電盤と連携し、あらかじめ設定した回路(冷蔵庫や照明など)に自動的に電力を供給することができます。 これにより、停電時の生活の質は格段に向上します。

また、V2H(Vehicle to Home)という技術も注目に値します。 電気自動車のバッテリーを家庭用電源として活用するこの技術は、容量40kWh〜60kWhのEVバッテリーを非常用電源として使用できるため、数日間の停電にも対応可能です。

技術進化で向上した耐久性と災害耐性:最新パネルの性能分析

太陽光パネルの耐久性も、この20年で飛躍的に向上しています。 かつての太陽電池モジュールは、強風や雹(ひょう)に対する耐性に課題がありましたが、最新の製品では、JIS規格の降雹試験(直径25mmの氷球を時速80kmで当てる試験)をクリアするものが標準となっています。

風圧荷重についても、2019年の台風被害を踏まえて基準が見直され、多くのメーカーが従来以上の強度を持つ製品を開発しています。 具体的には、設計風速50m/sを想定した耐風圧性能を持つ製品が増えてきました。

また、パネルの設置方法も進化しています。 特に注目すべきは「陸屋根置き基礎工法」です。 従来の貫通工法では屋根に穴を開けるため雨漏りのリスクがありましたが、置き基礎工法では屋根に穴を開けずに高い強度で設置することが可能です。

さらに、パネル自体の発電効率も向上しています。 私が開発に携わっていた2000年代初頭の単結晶シリコン太陽電池の変換効率は15%程度でしたが、現在のハイエンドモデルでは22%を超えるものも登場しています。 同じ面積でより多くの電力を生み出せるようになったことで、限られた屋根面積でも十分な発電量を確保できるようになりました。

災害に強い住まいづくりのための太陽光発電システム設計

住宅タイプ別・最適な太陽光発電システムの選び方

住宅の形状や立地条件によって、最適な太陽光発電システムは大きく異なります。 ここでは、主な住宅タイプ別の選定ポイントをご紹介します。

戸建て住宅の場合、南向きの屋根を持つ住宅であれば最も効率良く発電できます。 理想的な設置角度は、緯度にもよりますが、日本では20度〜30度程度が一般的です。 もし東西方向の屋根しかない場合でも、近年のパワーコンディショナーは複数の方位のパネルを効率良く制御できるため、分散設置も有効な選択肢となります。

集合住宅においては、共用部分への設置が中心となります。 屋上への設置が一般的ですが、エレベーターの機械室や給水設備との兼ね合いを考慮する必要があります。 また、災害時には各住戸への電力供給よりも、共用部分(廊下照明やエレベーター)の機能維持を優先すべきでしょう。

平屋建ての住宅では、屋根面積が広いため大容量のシステムを設置できるメリットがあります。 一方で、2階建て以上の住宅では、屋根面積が限られるため高効率パネルの選択が重要になります。

カーポートへの設置(ソーラーカーポート)も近年増えています。 駐車場スペースを有効活用できるだけでなく、災害時には車を避難させてテント代わりに使用することも可能です。

停電時自立運転を確実にする設計ポイントと施工のチェックリスト

災害時に真価を発揮する自立運転機能を確実に働かせるためには、いくつかの重要なポイントがあります。

まず、パワーコンディショナーの選定が最も重要です。 自立運転時の出力容量が大きいモデルを選びましょう。 従来の1.5kWでは冷蔵庫とテレビ程度しか使用できませんが、3kW以上あれば電子レンジなどの大型家電も使える可能性が高まります。

次に、自立運転用コンセントの設置場所です。 一般的にはパワーコンディショナー近くに設置されますが、延長コードを使わずに済むよう、生活空間からアクセスしやすい場所に設置することが理想的です。 最近では室内に自立運転用コンセントを設置するプランも増えています。

蓄電池システムを導入する場合は、「全負荷型」か「特定負荷型」かの選択も重要です。 全負荷型は分電盤全体をバックアップするため快適ですが、容量の大きな蓄電池が必要です。 特定負荷型は必要な回路のみをバックアップするため、コストを抑えつつ効率的な運用が可能です。

また、施工面では以下のチェックポイントを押さえておくことが大切です:

  • パネルの架台がしっかりと固定されているか
  • 屋根の防水処理が適切に行われているか
  • 配線の引き込み部分に雨水が入り込まない構造になっているか
  • 自立運転への切り替え方法を家族全員が理解しているか
  • 定期的なメンテナンスが計画されているか

これらのポイントを施工業者としっかり確認することで、災害時にも安心して使えるシステムを構築できます。

費用対効果を最大化する容量設計と補助金活用術

太陽光発電システムの導入費用は、容量によって大きく変わります。 一般的な目安として、10kWシステムの場合、パネルとパワーコンディショナーを合わせて200万円前後が相場です。 蓄電池を加えると、容量にもよりますが、100万円〜300万円程度の追加費用がかかります。

しかし、初期費用だけで判断するのではなく、長期的な視点で費用対効果を考えることが重要です。 まず、自家消費率(発電した電力のうち、自宅で消費される割合)を高めることが鍵となります。 平日の日中に不在になる家庭では、タイマー機能付きの家電を活用して日中の消費量を増やす工夫も有効です。

また、蓄電池の導入を検討する際は、容量の選定が極めて重要です。 過大な容量は無駄な投資になりますが、小さすぎると災害時に十分な電力を確保できません。 一般的には、1日の必要最低限の電力消費量(冷蔵庫、照明、テレビなど)をカバーできる5kWh〜10kWh程度を目安に検討するとよいでしょう。

補助金の活用も忘れてはなりません。 国の「戸建て住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業」では、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準を満たす住宅に対して最大70万円の補助が出ます。 さらに、多くの自治体で独自の補助金制度を設けています。

例えば愛知県では、蓄電池の導入に対して最大10万円の補助金が出る自治体もあります。 補助金は年度ごとに予算や条件が変わるため、最新情報を確認することが重要です。 また、複数の補助金を組み合わせることで、さらなるコスト削減も可能です。

先進事例に見る太陽光発電の災害対応力

東日本大震災・熊本地震で活躍した太陽光住宅の実例と教訓

東日本大震災では、宮城県や福島県を中心に、太陽光発電システムを設置した住宅が「電気の灯る家」として重要な役割を果たしました。 特に印象的だったのは、宮城県石巻市の事例です。

ある住宅では、4kWの太陽光発電システムが停電から3日後に自立運転で稼働を始め、近隣住民のスマートフォン充電や情報収集に大きく貢献しました。 このケースでは、自宅の電力確保だけでなく、コミュニティの拠点としての機能も果たしたのです。

熊本地震では、益城町の仮設住宅に太陽光発電システムと蓄電池を組み合わせたシステムが導入され、共用スペースの電力確保に役立ちました。 これにより、被災者の生活の質を維持することができたと報告されています。

これらの事例から得られる教訓は、「自家発電能力が命を守る」という単純ながら重要な事実です。 また、災害時には個人の電力確保だけでなく、地域での電力シェアリングの仕組みも重要であることが浮き彫りになりました。

特に注目すべきは「レジリエンス・ハブ」の概念です。 これは、太陽光発電と蓄電池を備えた住宅や施設が、災害時に地域の電力供給拠点として機能するという考え方です。 今後の住宅設計においては、このようなコミュニティ視点も取り入れることが望ましいでしょう。

台風・豪雨災害を乗り越えた設置方法と技術的工夫

台風や豪雨による太陽光発電システムの被害事例からは、多くの教訓が得られています。 2019年の台風15号・19号では、千葉県を中心に太陽光発電システムの損壊事例が報告されましたが、その多くは設置方法に問題があったことが後の調査で判明しました。

耐風性を高めるための技術的工夫としては、以下のような対策が有効です:

耐風圧強化型の架台の採用:従来の架台よりも強度を高めた製品が開発されています。 特に屋根端部への設置を避ける:風の影響を最も受けやすい屋根の端から1m程度離して設置することで、風圧による被害リスクを低減できます。 モジュールクランプの増強:パネルを固定するクランプの数を増やすことで、強風時の脱落リスクを減らせます。

また、豪雨対策としては、防水施工の徹底が欠かせません。 特に屋根への貫通部分は、シーリング材の二重使用や専用の防水カバーの設置が推奨されます。 さらに、雨水の排水路を確保することで、屋根上での水たまりを防ぐことも重要です。

私が関わった実証実験では、耐風圧60m/sを目標に設計された架台システムが、実際の台風でもほとんど損傷を受けなかったという結果が得られています。 こうした耐久性の高いシステムは、初期コストはやや高くなりますが、長期的なリスク低減という観点では十分な投資価値があると言えるでしょう。

自治体と連携した地域レジリエンスモデル:名古屋市の取り組み

私が住む名古屋市では、「なごや災害に強いまちづくり」の一環として、太陽光発電を活用した地域レジリエンス向上プロジェクトが進行しています。 特に注目すべきは、小学校や公民館などの避難所指定施設への太陽光発電と蓄電池の導入です。

例えば、名古屋市瑞穂区の瑞穂小学校では、20kWの太陽光発電システムと15kWhの蓄電池を組み合わせたシステムが導入されています。 このシステムにより、災害時には体育館の照明やコンセント、非常用通信設備への電力供給が可能になりました。

さらに興味深いのは、平常時と災害時で電力の使い方を切り替える「デュアルモード」の採用です。 平常時は自家消費による電気代削減というメリットを享受しつつ、災害時には重要負荷への電力供給を優先する仕組みです。

また、名古屋市では「レジリエンス住宅認定制度」も導入されています。 これは、太陽光発電と蓄電池を含む防災設備を備えた住宅を認定し、固定資産税の減免などの優遇措置を提供する制度です。 2022年度には約300件の認定があり、市民の防災意識向上と太陽光発電の普及に貢献しています。

こうした自治体の取り組みは、個人レベルの取り組みと公共インフラを結びつける重要な役割を果たしています。 今後は、さらに「バーチャルパワープラント(VPP)」のような先進的な取り組みも進み、分散型エネルギーシステムの構築が加速するでしょう。

スマート技術との融合がもたらす次世代レジリエンス

AIとIoTを活用した災害時の最適エネルギー制御システム

最新の太陽光発電システムは、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)技術の融合により、さらに高度なエネルギーマネジメントを実現しつつあります。 特に災害時のレジリエンス向上に寄与する技術として注目されているのが、AI予測に基づく電力需給の最適化です。

例えば、気象予報データとAIを組み合わせることで、翌日の発電量を高精度で予測し、蓄電池の充放電を最適化するシステムが実用化されています。 これにより、曇りや雨の日が続く場合でも、限られた電力を最大限効率的に使用することが可能になります。

また、家電のIoT化と連携することで、災害時に優先度の低い機器の使用を自動的に制限し、重要機器への電力供給を確保するシステムも開発されています。 例えば、冷蔵庫やスマートフォンの充電を優先し、テレビや照明の使用を必要最小限に抑えるといった制御が可能です。

私が最近訪問した実証実験住宅では、HEMSとAIが連携した「災害モード」が実装されていました。 通常モードでは経済性を重視した制御を行う一方、災害モードでは電力の長期確保を最優先する制御に切り替わるのです。 このようなインテリジェントなシステムは、今後のレジリエンス住宅の標準になっていくでしょう。

仮想発電所(VPP)と地域間エネルギー連携の可能性

個々の住宅のエネルギーレジリエンスを超えて、地域全体のレジリエンスを高める取り組みとして注目されているのが「仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)」です。 これは、分散配置された太陽光発電システムや蓄電池をIoT技術で束ね、あたかも一つの発電所のように制御する仕組みです。

平常時はピークカットや需給調整といった経済的メリットを追求しつつ、災害時には地域全体の電力を融通し合うことで、レジリエンスを高めることができます。 例えば、被害の少なかった地域の余剰電力を、大きな被害を受けた地域に送ることも技術的には可能になりつつあります。

興味深い実証例として、横浜市のVPP実証プロジェクトがあります。 このプロジェクトでは、約1,400件の家庭用蓄電池をネットワークで接続し、災害時の電力融通の仕組みを検証しています。 一部の地域で停電が発生した場合でも、他の地域の蓄電池から電力を融通することで、地域全体のレジリエンスを高める取り組みです。

また、近年注目されているブロックチェーン技術を活用したP2P(Peer to Peer)電力取引も、災害時のレジリエンス向上に貢献する可能性があります。 電力の余剰がある家庭から不足している家庭へ、中央管理者を介さずに電力を融通し合う仕組みは、特に通信インフラが生き残っている場合に有効です。

こうした取り組みは、単に「自分の家の電気は自分で確保する」という段階から、「地域全体でエネルギーを支え合う」という新たな段階へと、災害対策の概念を拡張するものと言えるでしょう。

災害情報と連動する自動エネルギーマネジメントの未来

さらに一歩進んだ未来像として、災害情報システムとエネルギーマネジメントシステムの連携が挙げられます。 例えば、気象庁の緊急地震速報や大雨警報と連動して、自動的に蓄電池を満充電モードに切り替えるといった仕組みが考えられます。

すでに一部のHEMSメーカーでは、台風接近時に自動的に蓄電池の充電を優先させる「台風モード」を実装した製品が登場しています。 これにより、停電リスクが高まる前に事前準備を整えることができるのです。

また、従来は個別に運用されていた防災情報システムとエネルギーマネジメントシステムを統合することで、より効果的な災害対応が可能になります。 例えば、避難所の混雑状況や開設情報と連動して、自宅の太陽光発電システムを最適制御するといった応用も考えられるでしょう。

私が特に期待しているのは、地域防災計画と個人のエネルギーシステムが有機的に連携する仕組みです。 例えば、大規模災害時に自治体が指定する重要施設(病院や避難所など)への電力供給を優先するよう、各家庭の発電・蓄電システムが自動的に制御される仕組みです。

こうした「公」と「私」のエネルギーシステムの境界を超えた連携は、従来の防災の概念を大きく変える可能性を秘めています。 技術的なハードルはありますが、実現すれば地域全体のレジリエンスを飛躍的に高める可能性があるでしょう。

導入への実践的アプローチ

既存住宅への後付け設置:コストと工期の現実解

既に建っている住宅に太陽光発電システムを導入する場合、いくつかの現実的な課題があります。 まず、導入コストについては、4kWシステムで100万円前後、10kWシステムで200万円前後が現在の相場です。 蓄電池を加える場合は、容量にもよりますが、プラス100万円〜300万円程度を見込む必要があります。

工期については、一般的な戸建て住宅の場合、現地調査から設置工事完了まで1〜2ヶ月程度かかります。 工事自体は2〜3日で完了することが多いですが、電力会社との系統連系手続きに時間を要することがあります。

既存住宅での設置で特に注意したいのは、屋根の状態です。 築15年以上の住宅では、太陽光パネルの寿命(一般的に25〜30年)と屋根材の残存寿命を比較検討する必要があります。 場合によっては、屋根の葺き替えと同時に太陽光発電システムを設置するという選択肢も検討すべきでしょう。

実際に私のお客様だった60代のご夫婦は、築18年の住宅に太陽光発電を設置する際、屋根の状態が気になるとのことでした。 結果的に部分的な屋根の補修と太陽光発電の設置を同時に行うことで、総工事費を抑えつつ安心してシステムを導入することができました。

また、既存の電気設備との互換性も重要です。 特に古い住宅では分電盤の交換が必要になるケースもあります。 これらの追加工事が発生すると、予想外のコスト増につながることがあるため、事前の詳細な調査が重要です。

新築時に考慮すべき構造設計と配線計画のポイント

新築住宅に太陽光発電システムを導入する場合、計画段階から考慮することで、より効率的で美観にも優れたシステムを実現できます。 以下に重要なポイントをいくつか挙げます。

まず、屋根の設計です。 南向きの屋根を広く確保することが理想的ですが、建築デザインや敷地条件との兼ね合いもあります。 太陽光発電の設置を前提とした場合、屋根勾配は20度〜30度程度が発電効率とコストのバランスが良いとされています。

屋根材の選択も重要です。 太陽光パネルとの相性を考えると、スレート(カラーベスト)やガルバリウム鋼板が施工しやすく、コスト効率も良い選択肢です。 瓦屋根の場合は専用の架台が必要になり、コストが増加することがあります。

構造設計においては、太陽光パネルの重量(約15kg/㎡)を考慮する必要があります。 一般的な住宅の耐荷重であれば問題ないことが多いですが、積雪地域では特に注意が必要です。

配線計画も重要なポイントです。 パワーコンディショナーの設置場所、蓄電池の設置スペース、接続箱の位置などを事前に決めておくことで、後からの改修コストを抑えられます。 特に、パワーコンディショナーは騒音・放熱の問題もあるため、寝室の近くを避けるなどの配慮が必要です。

さらに、将来的な拡張性も考慮しておくと良いでしょう。 例えば、当初は蓄電池を導入しなくても、後から追加できるよう配線やスペースを確保しておくことで、将来のコスト削減につながります。

施工業者の選び方と押さえておくべき技術的質問事項

適切な施工業者の選定は、太陽光発電システムの性能と耐久性を左右する重要なポイントです。 以下に、信頼できる業者を見極めるためのチェックポイントを紹介します。

太陽光発電システムの導入を検討する際は、エスコシステムズの年収や企業情報などを調査し、企業の安定性や技術者の待遇も確認しておくとよいでしょう。エスコシステムズのような省エネ設備のパイオニア企業は、施工品質だけでなく、アフターサポートの充実度も高い傾向にあります。

まず、実績と経験です。 太陽光発電の施工実績が豊富な業者を選ぶことが基本です。 特に災害対策を重視する場合は、その地域の過去の災害に対してどのような対策を講じているかを確認することが重要です。

次に、保証内容です。 一般的には、太陽光パネルは15年〜25年、パワーコンディショナーは10年前後の製品保証がありますが、施工に関する保証内容は業者によって大きく異なります。 特に防水工事については5年以上の保証があることが望ましいでしょう。

また、アフターサポート体制も重要な選定基準です。 定期点検のサービスがあるか、故障時の対応がどの程度迅速か、災害時のサポート体制はどうなっているかなどを確認しておくことをお勧めします。

施工業者との打ち合わせ時には、以下のような技術的質問をしておくと良いでしょう:

  • 自立運転機能の詳細と操作方法
  • 停電時に使用できる電力量の目安
  • パネルの固定方法と耐風設計
  • 屋根への防水処理の詳細
  • 蓄電池導入時の拡張性
  • メンテナンス計画と点検項目
  • 雷対策の方法
  • モニタリングシステムの詳細

これらの質問に対して具体的かつ専門的な回答ができる業者であれば、技術的な知識と経験が豊富であると判断できるでしょう。 価格の安さだけでなく、こうした技術的な側面も含めて総合的に判断することが大切です。

まとめ

太陽光発電システムは、単なる省エネ・創エネの手段を超えて、住まいのエネルギーレジリエンスを根本から変える可能性を秘めています。 従来の中央集権型の電力システムに依存するのではなく、「自分の屋根で発電し、自分で蓄え、自分で使う」という自立型エネルギーの概念は、災害大国日本においてますます重要性を増しています。

特に注目すべきは、技術の進化と地域コミュニティの連携がもたらす相乗効果です。 個々の住宅のレジリエンス向上だけでなく、VPPやP2P電力取引などの技術を活用することで、地域全体のエネルギーレジリエンスを高める取り組みが広がりつつあります。

私が20年にわたる太陽光発電の開発経験から強く感じるのは、これからの住まいづくりには「エネルギーの自立性」という視点が不可欠だということです。 平常時の経済性と非常時の安全性を両立させる太陽光発電システムは、その中心的な役割を果たしていくでしょう。

皆さんも、新築や改築の際には、ぜひ災害対策としての太陽光発電の可能性を検討してみてください。 それは、自分自身の生活を守るだけでなく、地域全体のレジリエンス向上にも貢献する選択となるはずです。